(で・ん・わ・く・だ・さ・い)
レストランを出る間際に、名刺をくれた男が無言のまま唇をオーバーに動かして耳に出来ない言葉を私に向けた。
私は瞑想をしているかのように静かにそれを無視する。
真理奈が早口で何か捲くし立てているが、この瞬間にうつつを抜かしている私には聞こえなかった・・・
真理子と別れて家路につく・・・
玄関の扉を開けると夫が青いサムソナイトを広げ、大きく開いたそのスーツケースの口に身の回りの品を詰めている所だった。
「ただいま・・・」
私は意図的に純真無垢な笑顔を作ってみせる。
「ああ・・・」
夫は虚ろな目でチラリと私の瞳を見た。
「海外出張の支度しているの?」
質問を投げかける妻に夫は『ああ・・・』と素っ気ない溜息で答える。
「何処へ何時から行くの?」
真実を確認するための問いかけ・・・
「アシタ出る・・・シカゴ」
夫の答えは言葉を覚えたての幼児のようだった。
(まるで夜逃げするみたいね・・・)
私の心が呟やく・・・
その瞬間・・・
夫は秘密の縛めに気付いたかのように哀れな道化師の眼差しで私を見上げる。
「お土産・・・買ってくるから・・・」
夫は不自然だが美しい、矛盾した笑顔を作った。
その偽りと虚飾に私は凍てつく・・・
夫は『ハァ』と小さな溜息をついた後、おもむろに立ち上がり何の前触れもなく私を抱きしめる。
ペニスの無い夫の股間が、何故か熱く感じられた・・・
夫は私の胸元に手を掛け、桃色のドレスを引き下げる。
あらわになった私の乳房たちを夫の大きな手が包む・・・
予知しないホルモンの貢物に私は戸惑いながらも欲情した。
下着を身に着けていない私の下腹部が女の権威にうごめきたがって濡れていく・・・
夫は生暖かい唇で私の乳首を愛撫した・・・
「あぁぁ・・・っ」
静寂の中に私の溜息が漏れた時・・・
夫の濡れた唇が私の固くなった乳首と別れを告げ
「お土産・・・何が良い?」
と、生きそこないの言葉を残してまた何事も無かったかのように旅の支度を始めた・・・
私に属する濡れた女のドレープが涙を流した。
匂い立つ私の情熱は繁栄を閉ざされたまま途方に暮れる。
私は忙しそうにうつむく夫の前で桃色のドレスを脱ぎ捨てた・・・
夫は私の火照る裸体を見る事も無く「そのドレス綺麗だね」と言った。
私の発情は憤慨し、仕返しを試みる・・・
哀れな踊り子のように夫と言う氷の銅像の前で自分を慰める・・・
愛を求めて固くなった自分の乳首を右の指たちが激しく摘み、左のゆびたちはぐっちょりと濡れた赤い花びらを弄った・・・
本当は・・・
夫が作るぺき愛の歓喜が私の唇から零れるまで・・・

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